入学説明
平成13年7月30日

緊張するなあ。教習所に通うなんて１６年ぶりだ。あの頃はまだ高校生だった。
町を軽トラで軽快に走るオバさんにも尊敬のまなざしで見たものだ。
そういえば、岡田有希子自殺の一報は教習所のテレビで知ったんだっけ。

入学説明会の席上、ボクはそんなことを考えていた。
前では、教官がこの教習所の見取り図を指し示し、いろいろと説明している。

しかし、やたらと明るい教官である。
親しみやすいというか、なんというか。まるでＮＨＫ「おかあさんといっしょ」の体操のおにいさんだ。
今、いきなり、「はい、みんな立って、大きく背伸びをしようね」
と言われたら、なんの疑問もなく素直に従うだろう。
しゃべるときに、やたらと「うん」を頭につけるところが気になるが、それも愛嬌だ。

この感じ、なにかに似てる。
そうだ！ スポーツジムだ！ スポーツジムのインストラクターの雰囲気なんだ。
いや、スポーツジムに入会したことなんかないからわかるわけないんだけど、そんな気がする。
なるほど、さっきから誰かに似てると思ってたんだ。キャラがまるで「中山きんにくん」だ。

あ、あかん、そう思ったらやたらおかしくなってきた。
調子に乗って最前列に座ったのはまずかった。
なんとか、身体をつねってごまかさねば。痛い。でもおかしい。

とにかく、ボクの思考から「中山きんにくん」を追い出さなければ。別のことをかんがえよう。

別のこと、別のこと・・・・。
ええっと、極悪Ｙ氏から、「パーティの時はなにか面白いことを考えろ」って言われてたっけ。
そうだ、こんなときは頭の中で、デンスケ氏作詞作曲の「非道Ｉ氏の唄」でも歌うのが一番だ。

「♪♪♪♪♪♪♪♪・・・」

あ、あかん！ これは、笑顔を絶やさないためのウラ技だった。
ここでは逆効果じゃないか。
別のこと、別のこと・・・・。

しかし笑ってはいけない場面であるほど、非道Ｉ氏の天井ぶち抜き事件とか、
デンスケ氏の部室の壁ぶち抜き事件とか、店長氏のオービスピカッとため息事件とか、
おかしくてしょうがないことばかり思い浮かぶのだ。

とにかく、頭から中山きんにくんやデンスケ氏を追い出しながら周りを見回してみる。
高校生のガキや、大学生と思われる人に混じって、どう見ても初老という感じのひともいる。
さすがにバイクは趣味の世界だな。年齢層の幅も広い。

しかし、最近の教習所もハイテク化が進んでいる。
全員に磁気カードが配られ、予約もすべてタッチパネルだ。しかも、iモード予約まで可能とは。
なるほど、入学金が高いはずだ。


そうこうしているうちに適性検査である。

適性検査って、指を動かすとか、片足で立てるとか、そういう身体的なことをやるのかと思ったのだが。
確か、普通免許取るとき、そんなことやらされた記憶があるぞ。

しかし、なぜか教室に誘導された。それも、二輪免許コースも普通免許コースもいっしょくたに。
そして、マークシートのようなものが配られ、知能検査みたいなことをやらされるのだ。

Ｈマークを大、小、中の順に延々と書きつづけたり、見本と同じ形を見つけ出してチェックしたり。
いつから、こんな検査するようになったのだ？
普免取ったときには、こんな検査なかったと思ったが・・・。単にボクが忘れてるだけなのか？
そもそも、バイクの免許を取るのに、なんでこんな検査受けなきゃならないのだ。ＩＱでも調べようってのか。

他にもいくつかの質問に対し、「はい」「いいえ」で答えるアンケートみたいなものまであった。
それも免許更新時に配られる、「他のクルマに追い越されると、カっとなる」みたいな、
最終的に「あなたはどんなタイプのドライバー？」っていう、あんな奴かと思ったら。

「法律はすべての人に公正にできていない」とか、「職業を変えることは恥ずかしいと思う」とか、
なんか思想調査みたいな質問が続く。

かと思えば、
「今まで、死にたいと思ったことがある」とか、「私の周りにスパイがいる」とか、
おいおい、そりゃ精神障害か薬物中毒の検査だろう、と思われるものまである。

いったいこの質問で、何を調べようとしているのだろう。
これを「適正検査」と呼んでいいのか？
なにか釈然としないぞ。怪しげな研究の調査対象になったような気分だ。
ウラに公安がからんでいるんじゃないだろうな。
例えば、「私の周りにスパイがいる」って質問に「はい」と答えるとどうなるんだ。
試してみたい衝動に駆られる。

だいたい、ボクは心理テストみたいなものがキライだ。
自分の内面に土足で入られような気がするではないか。
例えば、一枚の紙を配られ、「ここに木を書いてください」と言われようものなら、
まず、すぐ頭に思い浮かんだ「木」を書くなんてことはしない。
その上で、それと似ても似つかないような「木」を描くのである。
そして、間違った心理分析を神妙に聞きながら鼻で笑ってやるのだ。

まあ、そんな次第で反抗心がムクムクもたげてくるのだが、やっぱり面倒事はいやだな。
こんなことで免許を棒に振りたくないし。すでにお金は全額取られているわけだから。
ここは涙を飲んで正直に答えておこう。
無難な分析結果を受け取るなんて、ボクの性格が許さないのだが・・・・。

まあいい、これで入学儀式も一応終わりだ。

さあ！ 待ちに待った技能教習の始まりだ！